ミラージュを自作し浮上イルージョンを楽しむ

ミラージュを自作し浮上イルージョンを楽しむ



 ミラージュと呼ばれる理科教材のマジックミラーは、かなり高価ですが、ステンレス平面板を用いて、とても安価に自作できますので、その方法を示しました。これで空間に浮き上がったイルージョンをみることができます。7年前に作ったものも、全く曇ることなく今も健在です。

Contents

1. はじめに
2. 筒で作る簡単なミラージュ
3. ハーフパイプで作る簡単なミラージュ
4. おわりに
5. (追記)立体画像で浮上イルージョンを楽しむ
6. (付録)時計皿で作るミラージュ



1. はじめに


 ミラージュ(mirage)とは、蜃気楼とか幻覚(illusion)という意味ですが、戦闘機にMirageという名前のものがありますし、くるまにも同名のものがあることがよく知られています。

 ここでいう、ミラージュとは、ミラーの反射を用いて空間に飛び出した虚像を作って楽しむツールのことを意味します。これは理科教材として 市販 されていますが、立派な商品なので相当高価です。特殊凹面鏡[1]を2枚使っているため高価になるものと推測されます。

 そこで、凹面鏡を使わないで、身近にありふれたものを使って、何とか安価にできないかと思い工夫してみました。以下、作り方の詳細を示しました。

2.筒で作る簡単なミラージュ


 Fig1(a)は、塩ビパイプを切って作った筒(内径130φ、外径140φ、高さ110)の内側にステンレス板を貼ってあります。両面テープを使って貼ればよいです。ステンレス板は厚み0.1で、ホームセンターで購入可能です。筒の材料は塩ビパイプでなくても、強度を犠牲にすれば、ボール紙を重ねて丸めて作れば安価にできるでしょう。

 ステンレス板はピカピカとよく光る面を表面に出るようにし、しわのないように滑らかに、スムーズにたわめて貼ることが重要です。ステンレス板が入手できないときは、ピカピカのアルミ板(厚み0.2以上)でも大丈夫です。

 ステンレス板もアルミ板も、紙切りばさみで切断できますが、それだとしわが発生しやすいので、できれば切断機(シェアリング式)を使う方が良いでしょう。

 Fig.1(b)は、塩ビパイプ製の筒の底板です。これは筒の底に、はめ込みます。底板の中心に綿棒がさしてあります。

 Fig.1(c)はパイプの上部のふたになるものです。中心の円形窓, window, の部分は切り抜いてあり内部が見えますが、他の部分は不透明です。不透明といっても、筒内部を明るくするために、たとえばトレーシングペーパーとか乳白色プラステイック板がよいと思います。

 


Fig.1 (a)塩ビパイプ製の筒、(b)底板(合板0.5t)、(c)中心に孔がある天板(蓋)

 Fig.2は、Fig.1に対応する写真です。



Fig.2 (右)塩ビパイプ製の筒、(左)底板、(上)天板

 Fig.3は、塩ビパイプに底板をはめ、綿棒を立てた状態で、内部を覗き込んだ写真です。底板がべニア合板なので、全体的にその色調に見えています。



Fig.3 ミラージュ内部

 Fig.4は、Fig.3より低い角度からみたミラージュ内部です。綿棒が2本見えますが上の綿棒は虚像(まぼろし、イルージョン)です。




Fig.4 斜め上のある角度からみたミラージュ内部。
下の綿棒が実物で頭だけ見えています。上の綿棒が虚像です。
片目でみると、浮き上がっているように見えませんか。

 Fig.5は、Fig.4にふたを乗せた状態を示しています。この写真は立体視できないので、浮き上がって見えなくなってしまいます。どのくらい浮き上がっているか説明しますと、Fig.6のようになります。




Fig.5 ミラージュの概観。見えている綿棒はイルージョンです。

 Fig.6は、虚像を概念的に示した図です。浮き上がってみえる高さhは、例えば25mmくらいです(厳密に言うと、hはこのような一定値ではなく、θにより変化します)。hは物差しをあてがって測定可能です。指でつまもうとしてもつまめないためイルージョンであることにすぐ気が付くと思います。



Fig.6 浮き上がってみえるイルージョンの説明図。
hは物差しをあてがって測定可能です。


 塩ビ筒の断面は円ですが、ボール紙で作れば楕円その他、自在にできそうです。研究してみてはいかがでしょう。

 Fig.1(c)の天板は、同心円状にwindowを開けてありますが、Fig.7のように、ずらして開ければ、hが大きくなり、h=30くらいになります。また、底板に綿棒を立てる位置をFig.8のようにずらしますと、やはりhが大きくなり、h=30〜40くらいになります。以上の場合、綿棒の長さも関係します。したがって、@綿棒の高さ、A綿棒の位置、B天板のwindowの穴あけ位置を工夫してみると興味深いと思われます。




Fig.7 Windowの位置をずらした天板




Fig.8 綿棒の位置をずらした底板


 Fig.9は、綿棒の代わりに LEDを用いた場合 を示しています。写真がうまく取れませんでしたが、肉眼ではLEDの輪郭も鮮明に見えています。この写真は、単眼視であり、立体視できないので、浮き上がっていることはわかりません。しかし、両眼でみると40mmくらい浮きあがっています。実物をみると、きっとびっくりするでしょう。綿棒と違って、LEDは明るく発光しているので、2mくらい離れた位置から見ても大きく浮き上がっていることが鮮明に見えます。



Fig.9 天板を乗せた状態。この写真ではわかりませんが、
実物を作り両眼視すると40mmくらい浮上した位置にLEDが見えます。



 Fig.9に写っている天板は、Fig.10のような形をしています。幅20-30の切込みが円周部分から中心位置まで設けてあります。綿棒の場合は綿棒に光をあてないと見えないのですが、LEDの場合は、それ自身で発光するので、このような天板でよくなります。




Fig.10 Fig.9の天板の形。幅20の切込みが入れてある。



 浮上した高さhと見る角度θ(Fig.6参照)の関係をFig.9の場合について測定してみると、Fig.11のようになります。



Fig.11 浮上した高さhと見る角度θの関係



3. ハーフパイプで作る簡単なミラージュ


 さて、ここまでの記述をよく考察なされば、反射板は筒状でなくても、ハーフパイプ状でも良いことに気づくでしょう。この方法だと塩ビパイプは不要です。

 仕上がりの外観は、四角い箱型になりますが、Fig.12は、天板とハーフパイプを外したときの斜視図です。木製です。天板はFig.13に示してありますが、図のような約30mm幅の切り込み、window、があけてあります。

 Fig.14は天板を外したときの平面図です。Figs.12&14の湾曲部分にステンレス平板を湾曲させて作ったハーフパイプをあてがい接着します。Fig.14のBと記したところはLED用の電池室です。LEDはFig.1(b)の綿棒のように立てます。綿の部分がLEDに相当するようにします。棒はエナメル線などの導線で作ります。

 もし、LEDを使わない場合(発光しないものを使う場合)はwindowをもっと広げて、箱内部に室内光が入るようにする必要があります。




Fig.12 天板とステンレス製ハーフパイプを取り外した状態の斜視図






Fig.13 天板(ふた)






Fig.14 天板とステンレス製ハーフパイプを取り外した状態の平面図



4. おわりに


 得られる虚像には、当然、ゆがみがあります。見る角度によっても変化します。ゆがみがあれば科学ではないということでもないでしょうから、このことも、それなりに興味深い観察対象になります。

 ちなみに、織部焼では破調の楽しさということがもちいられましたし、科学のやり方は決まりきったものではない、のでは?  芸術の世界では、破調は重要な要素です。これは芸術と科学の融合という楽しみ方でいかがでしょうか。

 上述のように、用いる塩ビ筒の断面は円形ですが、もしボール紙を丸めて作る場合は、円形以外の形も試すことが可能になります。試みてみると興味深いと思われます。

 また、上述のように、@綿棒(LED)の高さ、A綿棒(LED)の位置、B天板のwindowの穴あけ位置を工夫してみると興味深いと思われます。LEDは、好みに応じて点滅するものや、色の種類を選ぶことができるでしょう。また、LEDのようには発光しないものでも、綿棒だけでなく他のさまざまなもの(立体的なもので、たとえば折鶴など)を試してみると面白いとおもいます。

 市販のミラージュは、生徒のお小遣い程度でたやすく買えるような金額ではありませんが、ここに提案しました方法なら、かなり安価にできますので、自作したミラージュで浮上して見えるイルージョンを楽しんでみてはいかがでしょう。

文献:
 [1]商品説明を、下へスクロールしていくと特殊凹面鏡の説明図があります。

5. (追記)立体画像で浮上イルージョンを楽しむ


 その後、立体撮影アクセサリを使って、Fig.15に示す立体写真を撮りました。立体視するには、平行法と交差法がありますが、ここでは交差法を使います。パソコン画面と眼の間の距離は見える範囲で大きく(40-50cm)離してみた方が目が疲れません。

交差法立体視のやり方:

 1.画像と眼の中間付近に指を1本立てる。
 2.指先を見る。つまり、より眼にする。
 3.視線は、より目になったままに保ち、指をみつめていると後方に立体像がみえてくるので、指をすっと抜く。
 4.うまくいくと像が3つ並び、真ん中に立体画像が見える。浮上した虚像がみえる。

慣れると指がなくても可能です。



Fig.15 綿棒のイルージョンの立体画像

 写真はピントあわせが少し甘いですが、肉眼でみるとボケず鮮明にみえています。この場合のhは約35mmくらいでした。


6. (付録)時計皿で作るミラージュ


 時計皿を使ってミラージュを作る方法を示しています。この方法はガラスに蒸着または銀鏡反応で反射面を作成しなくてはなりませんので、上記のステンレス平板で作る方法よりかなり手間がかかりますが、一応参考のために記しました。



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Authored by AT. First upload:2014/2/6. Last modified 2014/4/6.

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