立体写真をとるアクセサリとステレオベース

立体写真を撮るアクセサリとステレオベース




 カメラ1台を左右にずらして立体(ステレオ)写真をとるとき、位置あわせをフリーハンドで行うと、位置決めがやりづらくて手間取りますし、どれだけカメラをずらしたかが勘に頼ってしまいます。
 この問題を解決するアクセサリーを製作しました。これで最適条件で撮影できるばかりか手振れ防止にもなります。私の製作体験と、これを用いてステレオベースを変えたときの立体画像について記しています。またエッシャー的立体視も楽しんで下さい。

Contents

1. はじめに
2. アルミ角パイプなどで作る簡単な立体撮影アクセサリーの作り方
3. アクセサリを用いて立体撮影した画像
4. ステレオベースを変化させたときの画像比較体験
5. 左右の画像を逆にした立体視の体験
6. ステレオベースと被写体距離との関係
7. 近接撮影の場合のステレオ画像の撮り方
8. 遠方撮影の場合のステレオ画像の撮り方
9. テレビ映像からステレオ画像を作る方法
10. 一枚の平面写真から作るステレオ視の体験(Sb=0)
11. おわりに

1. はじめに


 われわれの右眼と左眼は65mmくらい離れているため、各々の目は異なった像をみています。この画像の差異(両眼視差)を利用して脳が空間の再構築を行い立体的に認識します。逆に、両眼視差があるように撮影した二つの画像を、それぞれの眼に知覚させると脳に立体として認識させることができます[1]。

 両眼視差がある写真を撮影するのには、カメラ2台をFig.1の(a)または(b)のようにレンズの光軸方向を定めて同時撮影します[1,2]。2台のカメラの底面は同一平面上にある方がよいと思います。

 カメラ1台だけで、これを行うには、カメラの位置を左右にずらして2段階で撮影します[1-3]。これをフリーハンドで行うと、カメラの底面は同一平面上にあることと、カメラ間隔を適正値に定めることなどの位置決めがやりづらくて手間取りますし、どれだけずらしたかが勘になってしまいます(熟練者は大丈夫でしょうが)。




Fig.1 両眼視差が起こるようにする撮影方法[2]。(a)平行法、(b)コンバージェンス法。


 そこで、この操作が簡単にできるようにするためのアクセサリを作ってみました。このアクセサリは、もしかすると古くから知られていることなのかもしれませんが、自作した経験を記し、カメラ間隔を変えたときどうなるかの画像を撮影し、考察してみます。
 最後に、エッシャー的画像の立体視体験も加えておきました。

2.アルミ角パイプなどで作る簡単な立体撮影アクセサリーの作り方


 Fig.2は、アルミ製角パイプ(15x30x195,肉厚1.5)を用いて製作した立体撮影用アクセサリーです。上面に細長い孔、下面に小孔をあけてあります。アルミ製角パイプはホームセンターで購入可能です。




Fig.2 製作したアクセサリの概観。アルミ製の角パイプ使用。総重量61g。

 Fig.3は、正面方向から俯瞰した状態を示しています。細長い孔の大きさは長さ75、幅10です。



Fig.3 正面方向から俯瞰した状態のアクセサリー(15x30x195)


 Fig.4は、Fig.3の下面を示しています。小さな穴はねじ切り(タッピング)してあります。タップはホームセンターで購入可能です。この孔は三脚の台座のねじを入れて締め付けるためのものです。




Fig.4 Fig.3の下面。小穴は三脚に固定するためのもの。


 Fig.5は、カメラの底面にあるねじ孔にねじ込むねじです。市販のねじを加工して、塩ビの筒状のものを差し込んで接着してあります。この塩ビはFig.3の細長い孔に入れ、孔の側面に沿って滑らかに摺動させるためのものです。摺動可能長さは70mm(穴の長さは75mm)に作りました。



Fig.5 カメラの底面にあるねじ孔にねじ込むねじ


 Fig.6は、Fig.4の孔にねじを差し込んだ状態です。アクセサリをしまっておくときには、ねじの散逸を防ぐためにここに差し込んでおきます。



Fig.6 ねじの保存方法。使わないときにはねじをFig.4の孔に差し込んで保存する。



 Fig.7は、製作したアクセサリを三脚に固定した状態を示しています。上部に見える細長い溝にカメラに付けたねじを差し込んでアクセサリ上を摺動させて撮影します。




Fig.7 アクセサリを三脚に固定した状態



  以上は、アルミ角パイプを用いた場合ですが、Fig.8は木で作る場合の1例です。



Fig.8 木で作るアクセサリの例



3. アクセサリを用いて立体撮影した画像



 Figs.9-11は製作したアクセサリーにより撮影した画像です。カメラ2台の間隔65mm、コンバージェンス法で撮影してあります。

 立体視するには、平行法と交差法がありますが[1]、ここでは交差法を使います。パソコン画面と眼の間の距離は見える範囲で大きく(40-50cm)離してみた方が目が疲れません。

交差法のやり方:
 1.デイスプレイ上の画像と眼の中間付近に指を1本立てる。
 2.指先を見る。つまり、より眼になる。
 3.視線は、より目になったままに保っていると、左右の画像がよってきて重なり、指は2本にみえる。
 4.そのとき指をすっと抜く。
 5.うまくいくと像が3つ並び、真ん中に立体画像が見える。

慣れると指がなくても可能です。

 立体視は、長く見つめていると眼がつかれますので、短い時間でやめた方がよいです。



Fig.9 コーヒーカップの立体写真




Fig.10 八朔

 次のFig.11は少し風があるときの撮影です。手前に突き出た枝葉がとくに揺れているためぼけています。1台のカメラを移動させて撮影する方法では、この問題は宿命的になります。静止しているものでないと良い立体画像は撮れません。


Fig.11 南天


4. ステレオベースを変化させたときの画像比較体験


 カメラを横移動させる距離(Fig.1のカメラ2台の間隔)はステレオベース(Sb)と呼ばれます[1,2]。Fig.12はSbが測れるようにアクセサリに目盛(cm)をつけてあります。これによりSbの値を変化させて、コンバージェンス法(Fig.1(b))で撮影してみました。カメラから被写体までの距離は〜48cmです。



Fig.12 Sb目盛(cm)を付けたアクセサリ

 Figs.13-19は、Sb=10-70mmに対する画像です。Sbの大きさによってどんな違いがあるかはよく知られていることではありますが、体験のために、それぞれを注意深く立体視してみてください。ここでは交差法を使います。



Fig.13 Sb=10mm



Fig.14 Sb=20mm



Fig.15 Sb=30mm



Fig.16 Sb=40mm



Fig.17 Sb=50mm



Fig.18 Sb=60mm



Fig.19 Sb=70mm

 Sbが大きくなるほど、強く立体的になり、それにともなって眼の緊張が強くなることに気づくでしょう。このなかでは、Sb=10〜20mm(Figs.13&14)が最適画像だと思います。Sbが60-70では、得られる立体画像と肉眼視との間に差(立体画像では奥行きが深すぎる)があり違和感があります。

 カメラ2台の並列配置方式ではカメラのボデイのかさがあるため、Sb=10〜20mmで撮影することは不可能です。上記のようなアクセサリが必要です。  

5. 左右の画像を逆にした立体視の体験


 交差法で立体視するときは、右のカメラ(Fig.1のR)で撮影した画像を左に、そして左のカメラ(Fig.1のL)で撮影した画像を右に並べて観察します[1]。これを逆に配置して立体視したらどのように見えるでしょうか。よく知られていることかも知れませんが、その体験です。

 Fig.20は、Rで撮影した画像を左に、そしてLで撮影した画像を右に並べてあります。 Fig.21は、この逆に並べてあります。

 交差法で立体視を行い、Fig.20とFig.21の違いを実際に体験しましょう。



Fig.20 左右の画像配置が正しいとき




Fig.21 左右の画像配置がFig.20とは逆のとき



 どうでしょうか。Fig.21で見えたものは、非現実的でしょう。
 立体視で、手前にあるcupと後方にあるcupの位置関係の見え方を吟味してみる(とくに後方のcupをよく観察する)と、Fig.21の非現実性がよくわかると思います。私は、エッシャー[4,5]の絵のいくつかを思い出します。彼は前後位置関係の錯綜・マジックの面白さを強調しました。

 Fig.21の立体画像の見え方も、エッシャーの絵と同様に楽しんで戴けたらと思い掲載してみました。

 なお、Figs.20 & 21を平行法で立体視するときは、左の画像の中心から右の画像の中心までの距離をデイスプレイ上で4-5cmくらいに小さくして(ctrlキーを押したまま、−「マイナス」キーを押すと小さくなります)から立体視を実行してみてください。今度はFig.20の方にエッシャー的非現実性が現れたでしょう。

 平行法による立体視のやり方:
 デイスプレイのうしろの遠方を見るようにするとき、左右の画像が中心に寄ってきて一体化融合したとき立体視となります。眼とデイスプレとの距離は近づけた方がよいと思います。

 

6. ステレオベースと被写体距離との関係


 Fig.22は、よく知られていることを、グラフにあらわしたものです。ステレオベースSbと被写体距離dとのおおよその関係を示しています。式で書くと、

Sb(cm)≒2.5d(m)………………(1)


の関係があります。d=1mのときSb=2.5cmと覚えておき、あとは比例計算でよいと思います。ただし、実際に撮影してみて、その立体像が不自然でないかあらかじめ確かめておく方が安全です。また、dが数10cmという近接撮影でない限り、被写体までの距離は巻尺ではかるようなことはしなくて目測でよいし、式(1)やFig.22は大体の目安ですから、これにあまり厳密にこだわらずに撮影しても大丈夫です。




Fig.22 ステベースSb(cm)と被写体距離d(m)との関係

 この場合、着目する被写体より近いものが写りこまないようにする必要があります。

 Fig.4では、摺動可能長さは70mmに作りましたので、被写体距離dが大体3m前後まで対応できそうです。摺動可能長さを250mmのアクセサリーを作っておくと、Fig.22に示すように被写体距離dが約10mまで対応できるでしょうが、Sbが、250mmというように大きい場合は、フリーハンドで撮影して大丈夫と思います。ですから、そのように大きいアクセサリーを作る必要はないと思います。Sbが小さい場合、たとえば、Sb=15mmというような場合はフリーハンドの勘に頼るよりアクセサリーを使った方がよいと思います。


7. 近接撮影の場合のステレオ画像の撮り方


 このことについては、既に上述しましたが、ここに、まとめておきます。
ここで近接撮影とはカメラから被写体までの距離が数10cmの場合を扱います。この場合は、

 (1) 被写体に適度な照明を与えておきます。私は、蛍光灯と 自作の照明器(電球の種類を変えると色調が変わります)を合わせて使っていますが、自分の好みでよいでしょう。

 (2) 三脚に上記アクセサリーを取り付け、アクセサリーの上面の長方形の2個の長辺がそれぞれ水平になるようにします。短辺は傾いていてかまいません。

 (3) 被写体距離を巻尺で測り、式(1)に従ってSbを求めておきます。

 (4) Fig.1(b)のコンバージェンス法を使い撮影します。つまり、カメラをアクセサリー上をSbだけ摺動させる前後で、カメラのファインダーまたは液晶画面の中心マークを被写体の中心に合うようにします。

 (5) 撮影した画像から、画像処理ソフトで適度な範囲内を切り取って完成です。

8. 遠方撮影の場合のステレオ画像の撮り方


 遠方の場合は、Sbがかなり大きくなりますので、もちろんアクセサリは使えません。
 たとえば100m先の被写体を立体的に写したいとき、式(1)によれば、Sb=2.5mとなります。目測でSbをいくつか変えて撮影しておき、後で上記と同様な画像処理をして適切なものを採用すればよいと思います。

 人工衛星から地上の写真を立体的に撮るのには、Sbを大きくするために、飛行時間の差を利用して行われています。

 もっと遠い月面の立体写真を作るのには、地球の自転における時間差を利用すればSbを大きくとれますから、これにより撮影する方法があり、これは、文献[6]にわかりやすい説明と撮影した立体画像があります。

9. テレビ映像からステレオ画像を作る方法


 テレビで、航空機から撮影された山岳の映像が放映されました(NHK TVの金とく:西穂高岳という番組です。2014/4/4)。Fig.23はそのワンショットです。ヘリコプターは右の方向に向かって飛んでいました。ですから適切な時間をおいて次のワンショットを行えば大きなSbで撮影したことになります。この2枚の写真を使ってステレオ画像を作ります。

 テレビ映像には文字が入っていますので、これを削除するようにペイントなどの画像処理ソフトでトリミングしてこの2枚を左右に並べれば、Fig.24のようになります。これらを、交差法で立体視してみてください。

 作り方の詳細は、 「テレビからステレオ画像を作って楽しむ」 にあります。



Fig.23 北アルプスのテレビ画面(NHK TVより)




Fig.24 北アルプスステレオ画像(NHK TVより)

10. 一枚の平面写真から作るステレオ視の体験(Sb=0)


 一枚の写真だけでは、立体像を知覚することはできないのですが、そのときは片目だけで見つめると、なんとなく立体みたいに感じることは知っているでしょう。そこで、これを両眼視できるように、同じ写真を2枚並べてみたらどうなるでしょうか。Figs.26-27はSb=0のときの写真です。交差法で立体視してみてください。



Fig.25 左右同一画像(Sb=0のときのCups)




Fig.26 左右同一画像(Sb=0のときの八朔)

 以上を体験してみてどうでしたか。Fig.25では、結構立体感があるのではないでしょうか。Fig.26では、奥行き感は小さいものの、なんとなく立体感がありませんか。

11. おわりに


 視差を作るためにカメラを横移動させる距離Sbは、被写体までの距離によって変える必要があります。Sb=65mmの場合は、2-3m先の被写体に適するといわれています。これより近いものを撮るときは、Sbをもっと小さくする必要があり、そのときはアクセサリにつけた目盛を利用するか、あるいは細長い溝の一部をセロテープかビニールテープで貼っておけば、それがストッパーになりますので便利かと思います。

 このアクセサリを使ってみた感想ですが、フリーハンドで撮るときより、Sbも明確に決められるようになり、手振れ防止とカメラの位置決めの簡単さの点で格段にやりやすくなったといえます。私は便利に使っています。とくにカメラ2台の並列配置方式ではカメラのボデイのかさがあるため、Sb=10〜20mmで撮影することは不可能です。上記のようなアクセサリが必要です。

 応用として、「ミラージュによる浮上イルージョン」のFig.15の撮影に使ってみました。近接撮影なのでステレオベースを小さめにして撮影しました。この場合は、ステレオ画像を使わないと浮上イルージョンがみえませんので、立体画像が必須になり、とても威力を発揮します。また必須というわけではありませんが「正20面体の作り方を検討して楽しむ」 にも使ってみました。

文献:
[1]Wikipedia:ステレオグラム
[2]関谷隆司:ステレオ写真撮影の基本
[3]関谷隆司:デジカメ1台でステレオ画像をとる方法
[4]Wikipedia: エッシャー:ここに、エッシャー的透視法で描かれた立方体の図などが掲載されています。
[5]マウリッツ・エッシャーの錯視絵・作品ギャラリー【だまし絵】
[6]ステレオ月面写真の作り方



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Authored by AT. First upload:2014/2/17. Last modified 2014/4/11.

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