フリーエネルギー技術開発の特徴と種々相

フリーエネルギー技術開発の特徴と種々相








Chap.23.  植物・微生物から直接発電、樹木発電、その他

A.植物・微生物から直接発電

 1. 藻の光合成から直接発電(スタンフォードの科学者)
 2. 植物とバクテリアから発電(ペルーUTEC大学)
 3. 植物の光合成による5-40ワットの発電(Bioo社)
 4. 米国ジョージア大学の植物発電

 5. オランダの植物発電“プラント-E”―(ワァーヘニンゲン大学)
 6. 電流発生菌による発電(東京薬科大学)
 7. 電流発生菌の増殖法発見−酸化鉄と培養(東京大学など)
 8. 微生物を使った発電型排水処理システム、実用レベルに到達(NEDO)

 9. 微生物燃料電池の性能の飛躍的な向上と微生物による蓄電物質の生成(静岡大学)
 10. 微生物燃料電池で発電と枯渇資源リンの回収に成功(岐阜大学)
 11. 関連する他の情報(日本)
 12. 公開特許公報の例(日本)
 13. 世界における研究開発状況(特許・論文)

B.樹木発電
 1. 樹木発電(日本)
 2. 樹木発電(ワシントン大学)

C.その他
 1. 師管液成分を燃料とする燃料電池の試み(東京工芸大学)






Chap.23.  植物・微生物から直接発電、樹木発電、その他



 テレビ画面といえば、ブラウン管しか存在しなかった昔に、将来はテレビは薄くなって壁掛けテレビが可能となるという予言をいくつか読んだことがある。ブラウン管時代には、その技術は予想もつかない困難な技術に思えた。

 電子軌道を極端に大きく曲げてブラウン管を従来より薄くしたTVが開発されたことがあったが、壁掛け型にする為にはかなり厚くて重量もあり、理想とは程遠いものであった。

 やがて、液晶技術が徐々に発展して、その輝度・速度・画面がだんだん大きくなり、今のような薄いデイスプレイが実現したのである。予言に触れてから何十年も経過して実現した。

 家庭で植物を栽培し、植物から、家庭用電気の全てが得られるようになるという予言を20年ほども前に読んだことがある。ある研究者が何十年もかけて開発に成功したと書いてあった。果たして、そのようなことが将来実現するであろうか。

 そこで、植物による発電は、いま、どこまで進んでいるのか。それをちょっと見てみよう。

 以下に述べるように、日本における植物・微生物からの直接発電の技術は、発電菌の発見によりかなり進んでいて、1,000Wレベルの発電に向けた実用化に向かって鋭意研究がすすめられている。環境・自然・生態系の保全という価値を優先する循環型技術は、日本が大きく貢献できるかもしれない。

 この分野は、イーサエナジーを導入して過剰なエネルギーを得ることができる分野かどうかは、まだ不明である。とはいえ、注目に値する分野と考えられる。




A.植物・微生物から直接発電

1. 藻の光合成からの直接発電(スタンフォードの科学者)[文献1]



(by Brit Liggett)


 以下は、文献[1]の抄訳である。

 
  
文献[1]




(2010.4.15)
 スタンフォードの科学者たちは、いま、植物から直に電気を取り出すという緑のエネルギー源を発見した。彼らは、藻の中の光合成から、細胞レベルで発生した電子を直接電流の流れとして導いて、エネルギーを集めることに成功したのである。

 我々は、藻から作ったバイオ燃料がくるまを走らせることができることは知っている。しかし、我々の電力網が、池の水そのままの状態で動くと想像してみ給え。それは、精製することが不要である―つまり、必要なものすべては池の水、緑の材料、ハイテクの金電極だけなのである。

 一番いいことには、副産物はプロトンと酸素しか発生しないということである。

 
[文献1]


 植物が、光合成を行うとき、細胞の中の葉緑体が、H2Oセルを酸素、プロトンおよび電子に分割する。この分割の後、太陽からの光エネルギーが、プロトンを高いギアに飛ばし、電子は細胞を貫通して疾走し、そのエネルギーをタンパク質に与えて糖分を作るのに使われる。

 スタンフォード実験では、研究者たちは、電子が高速旅行に入る前に、途中で横取りすることができた。彼らは、金の微小電極を藻の細胞膜の内部に入れて電子を捕集した。それは洗練された強盗である。

 いままでのところ、細胞レベルでの成功に過ぎない。各細胞は微量のエネルギーを供給するにすぎない。単V電池を充たすためには、一兆(1012)個の細胞を1時間光合成することが必要である。―なお、ほんのちょっとのジュースに対し、とても沢山の細胞がある。

 研究論文の筆頭著者であるウオン・ヒョン・リューは、これは、植物からエネルギーを収穫する長期的実験の第一ステップであると述べている。この科学者たちは、植物細胞から電子を収穫する実験を初めて成し遂げた。さらに実験を重ね、もっとよい結果を得るだけのことである。



文献

[1]http://inhabitat.com/stanford-scientists-harvest-electricity-from-algae-photosynthesis/




(参考)

藻類が日本を産油国にする―2種の藻をハイブリッド高速増殖させ、エネルギー自給ができる日がやってくる

 筑波大学生命環境系・渡邉信教授(日本の藻類研究の第一人者)が、このプロジェクトのリーダーである。渡邉教授が打ち出した構想は、ボトリオコッカスとオーランチオキトリウムの2種類の藻類を複合的に活用するハイブリッド・システムであり、互いの長所と短所を補完し合う効率の良い方法であるという。








2. 植物とバクテリアから発電(ペルーUTEC大学)



 下記は、文献[1]の抄訳である。

--------------------------


“植物電球” 土と植物を電力源に変える


(by Kenrick Vezina, November 23, 2015)


 ペルーのUTEC(Universidad de Ingenieriay Tecnologia)大学の研究者たちは、雨林地域を助けるために、植物とバクテリアから電気を得る新しい方法を開発している。研究者たちは、植物から出てくる電気を捕獲する技術を開発したのである。

 (訳注:ペルーUTEC大学のホームペイジはここ。そこに植物発電とは直接関係ないが日本のことが載っていたのでコピーしてみた。コピーを見る。

 実際は、正しくは、それはジオバクター(土中に住むバクテリアの一種)が仕事をしている。ロビー・バーマンが下記のように、そのメカニズムを説明している。

 
  
土中の微生物により点灯するランプ、文献[1]




 UTECは、プロトタタイプ10台を作ってNuevo Saposoaの雨林の村の家々に配布するために、世界的広告代理店FCBと組んだ。それぞれ、一つの植物と地中に埋めた電極網があった。電極網はバッテリーにつながれていて、箱の外側に出た可動アームの先に取り付けた大きなLEDランプを点灯した。

 Nuevo Saposoa村や他の不遇な地域にとって、これは、素晴らしい生物工学技術以上のものである。電気、とりわけ光は、本当に必要なものである。バーマンは、次のように書いている。

 「ペルーのNuevo Saposoaとプカイパの熱帯雨林の村では、既存の電力網がありますが、昨年3月の洪水以来、そのケーブルが損傷し、それが動いていませんでした。熱帯雨林地域社会の42%は、そんなに電気をもっていません。日が暮れたら光も消えます。小さな子供のある家庭の実際の問題は、勉強する必要のある生徒も、不健康で危険な灯油ランプに頼る必要があります。」

 UTECは、この種の人道主義的な革新を行うという伝統をもっている。バーマンが次のように説明している。

「ちょっと前に、汚染により破壊された土中の水と、その土地の地域の上の空気から引っ張り出された清浄な湿気を用いたプラットフォーム上に植物を育てるという方法が見つかりました。」

 「植物灯」(UTECが名付けた名前)が成功すれば、それは熱帯多雨林地域に限られたことではない。(以下略)

 
  
「植物灯」の製作、文献[2]


 
  
「植物灯」の製作、文献[2]


 
  
「植物灯」の製作、文献[2]


 
  
「植物灯」を使った裁縫、文献[2]


 
  
「植物灯」による生徒の夜間の学習、文献[2]






文献

[1]“Plant Lamps” Turn Dirt and Vegetation into a Power Source

[2]ビデオ:https://www.youtube.com/watch?v=MOFRmR6MM1o







3. 植物の光合成による5-40ワットの発電(Bioo社)




 文献[1-3]によれば、植木鉢の観葉植物から5.0V, 1Aが得られるという。40ワット型もあるという。下図のように、商品名は、Bioo Liteである。技術的な詳細は公表されていない。以下、概略を文献[1-3]をもとにまとめてみる。

------------------------


 
  
Bioo Liteの外観(スマートフォン充電中)


  
Bioo Liteの使い方。




 使い方は、上図に示すようにポットの底の装置に水を注いで、好みの観葉植物を土ごと植えて、普通に育てるだけである。植物が光合成をする際に電子を放出する、という原理を使っているという。

  
Bioo Liteの原理図




 光合成によって生成される有機物の中には、植物の成長を促す成分が含まれているが、そのほとんどは根から土へと排泄されてしまう。そこにその有機物を食べようと微生物が集まる。微生物が有機物を消費する際に、電子が放出されているそうである。それをポットの底の装置の電極により回収し、USBポートから給電できるようにしている。

 普通の観葉植物ポットに見えるが、中からUSB充電ソケットがひっそりと出ている。ここからスマートフォンや各種電子デバイスの充電が可能である。太陽に照らされていない夜間でも充電可能。出力は3.5V、0.5A。

 出荷は、まだ行っていないが、2016年末を予定している。一個99ユーロから入手可能であるという。また、大きな電力が得られるタイプの100×100×25cmの“Bioo Panel”もあり、最大40Wの発電が可能だそうである。



文献

[1]http://www.bioo.tech/
[2]https://www.youtube.com/watch?v=QO1p32B-pqk
[3]http://www.digitaltrends.com/home/bioo-charge-smartphone-from-plants/








4. 米国ジョージア大学の植物発電







 これは、文献[1]からの引用である。ただし英語はできるだけ日本語に変え、明らかな誤記は直しておいた。

------------------------


ジョージア大学、植物から直接 電気を取り出す方法を開発


(Science Newsline, May 9, 2013.)




 地球は太陽から大量のエネルギーを得ている。しかし、太陽が地球に放射したエネルギーの内、実際に利用可能なエネルギーとして変換されているものは僅かしかない。

 この問題を解決するために、ジョージア大学の研究チームは自然からアイディアを得ることで、植物を使ってエネルギーを生成する方法を開発した。

 「クリーンエネルギーは世紀が必要としている」と学術専門誌「Journal of Energy and Environmental Science」に論文を提出したUGA(ジョージア大学)のRamaraja Ramasamyは、「この技術が実用化された場合、植物を使って電気を発電することができるようになるでしょう。」と述べている。

 植物は太陽光をエネルギーに変換する上で抜きん出た存在となる。数十億年に渡る進化の上で、ほとんど全ての植物は量子交換比率で太陽光の100%をエネルギーに変換する技を取得した。このことはつまり、植物の場合、受け取った太陽光の光子と同じ量の電子を生み出すことができることを意味する。

 植物はほんの僅かな光であってもエネルギーに変換することができるため、植物の原理を利用することで、現在12〜17%の間で推移しているソーラーパネルのエネルギー変換効率を大幅に向上させることができるだろう。

 光合成プロセスの場合、植物は太陽光を使って水の分子を水素と酸素に分ける。そしてこの過程で電子が生成される。新しく生成された電子を使って植物は糖を生成し、この糖によって植物は食料を得、成長し、再生を行っている。

 「私達は、この光合成プロセスをさえぎる方法を開発しました。この手法を使うことにより植物が光合成によって糖を生成する前段階で生じる電子を捕獲することができるのです」とUGA ナノスケール科学技術センターのRamasamyは説明している。

 Ramasamyはこの原理を応用したシステムを製作することにより、これまでに製作された同様なシステムよりも2桁も多い電圧を取り出すことに成功した。

 「近い将来には、このシステムは小電力でも動くことができるリモートセンサーやポータブルデバイスなどに利用されるかもしれません」と彼は述べる。「遺伝子工学の技術を応用することにより、この人工光合成のシステムの安定性を高めることができれば、将来的には従来型のソーラーパネルと十分に競合できるほどの電力を生み出すことができるでしょう。」

文献

[1]http://science.newsln.jp/articles/2013050915420015.html







5. オランダの植物発電“プラント-E”―(ワァーヘニンゲン大学)





 これは、文献[1]の抄訳である。

-----------------------------------------------------


5.1 “プラント-E”のウエブサイトにようこそ



 “プラント-E”は、若いオランダの会社であり、生きている植物から電気を発生する商品を開発することに焦点を当てている。電気を発生するこの非常に革新的な方法は、環境に非常にやさしいばかりでなくユニークであり、全世界的にわたって広く共存可能である。

 我々のウェブサイト上に、この技術、商品および“プラント-E”についての情報を提供している。



 ・なぜ、“プラント-E”を選ぶか?
 
  
緑の電気

生きている植物から電気を得ること。それ
よりも美しいものってありますか?
あなたの環境は、あなたが自然を楽しみ
つつ電気を発生できるのです。[1]
環境にやさしい

“プラント-E”を選ぶことは、環境を意識し、
環境破壊なしに継続利用可能。[1]



 
    
  
きれいな情景

環境破壊なしに継続利用可能なことを選ぶ
のは賢いばかりでなく“プラント-E”商品
はユニークで見栄えもよいのです。[1]
緑の革新的企業へのご支援について

私達は、若くて革新的な会社(複数)は未来
であると思います。
私達の製品とプロジェクトに投資されると、
私達は、研究開発をもっと進めることができ、
他の継続利用可能な製品をマーケット
に供給できるようになります。[1]
(訳注:投資リスクは自己責任で)





5.2 “生きている植物から得る電気の技術について



・技術

 “プラント-E”は、生きている植物で電気を発生する製品を開発している。これは、ワァーヘニンゲン大学において開発された技術に基づいている。2007年に、大学の特許になっているが、“プラント-E”は、2009年にワァーヘニンゲン大学から特許を得ることができた。

 この技術は、植物が育ち水が豊富に得られる地域ならどこでも生きている植物から電気を発生させることを可能としている。これは、自然のプロセスに基づいていて、植物および環境の両方にとって安全である。



・光合成

 光合成をとおして植物は有機物質を作る。この物質の一部は植物の成長のために使われるが大部分は植物によって使われのではなく、根をとおして土の中に排出される。

 土の中では、自然発生するバクテリアが、有機物質を分解し、その過程で電子を放出する。“プラント-E”の技術では、この電子を電気にして使うことを可能としている。研究によれば、植物は電子を収穫しても傷むことはなく、したがって電気を生産しながら成長をし続けることが可能である。



・製品

   “プラント-E”の製品は、最近、モデュラー・システムとして組みあがっている。“プラント-E”モデュールおよびDIYボックス(大小あり)を入手可能である。このほかに、“プラント-E”は、湿地帯に応用できるシステムを開発中である。これは、地面の表面の下の植物の根の領域に置くチューブ・システムである。

 モデュラー・システムでは、自然を技術へもってきて、チューブでは、技術を自然へもってきたいと思っているのである。さらに詳しくは、我々のショップで見られる。また、研究開発に関するさらなる情報はnewspageで見られる。


 
  
Plant-e DIY Box @Home
134,99ユーロ
Plant-e DIY Box Large
649.99ユーロ








5.3 “プラント-E”モデュラー・システム



 “プラント-E”には、異なる形とサイズのモデュラー・システムがある。

・1m2ガーデン

 この1m2ガーデン型は、ドライブウェイやオフィスの入り口に、とくに向いていると思う。これは、4個のモデュールと小さな点滅するLEDから成り立っている。モデュールはわかりやすい組み立て説明書がついている。木のフレームは、有り、無しで販売できる。価格:1000ユーロ。



・100m2モデュラー・システム 

 最も大きいモデュラー・システムは、100m2モデュラー・システムである。400個のモデュールは、LED(複数)の点滅、LEDストリップ、あるいは光装飾のために使うことができる。このシステムは経験を積んだチームによって設置される。60,000ユーロ。



・他のサイズ 

 上記以外の形と寸法については問題なく対応可能でであるので、連絡されたい。

 
  
“プラント-E”モデュラー・システム




5.4 プラント-Eについて


  
創立者&CEO:
Marjolein Helder[3]


 これは、文献[3]の抄訳である。

------------------------


 プラント-Eは、ワァーヘニンゲン大学の環境技術のサブ部門からのスピンオフ・カンパニーとして2009年9月14日に設立されました。博士号を取得する研究を行っているときに、Marjolein Helder および David Strikがこの会社を設立しました。2012年には、Nanda Heshofを雇用しました。

 Marjoleinが博士号を授与された後に、Nandaは、2013年1月にフルタイムで仕事を開始しました。同じ年に、雇用による大きな研究プロジェクトがスタートし、プラント-Eは、Marjolein, Nanda, Pim, Paulien, Danielからなる現在のコア・チームに成長しました。

 Davidは、ワァーヘニンゲン大学の助教授として働いていて、いまも、学術的研究とプラント-EのR&Dの間の重要な橋渡しをしています。

 
  


 
  


 我々は、いまも開発続行中であり、あなたと一緒にこれを行いたいと思っています。もし、我々の商品に何か質問があれば、できる限り早急に対応します。(以下略)



5.5 AFP BB NEWSより



 これは、文献[4]の引用である。

-----------------------------------


 
  
文献[4]


【6月19日 AFP】
 水田で栽培される稲などの、水面下に根を張る植物を利用して発電する画期的なシステムを、オランダの科学者チームが開発した。このシステムが、世界各地の孤立した村などで安定した電力供給源となる日が来るかもしれない。

 生きた植物からエネルギーを「収穫」するシステムを開発したプラント・イー(Plant-e)の共同創立者、マロリン・ヘルデル(Marjolein Helder)氏は「これは、植物が必要量を上回るエネルギーを生成するという原理に基づいている」と話す。

 「このシステムが太陽光発電や風力発電より優れている点は、夜間や風がない時でも稼働することだ」とヘルデル氏は、AFPの取材に語った。

 このシステムで電気を生み出すために必要なのは、水中に根を下ろす植物だけだ。マングローブの低湿地、水田、沼地に生える植物でも、植木鉢や庭などで栽培される植物でもよい。

 このシステムの技術は、植物が光合成で生成する有機物の余りを利用している。余分な有機物は植物の根から放出され、微生物に消費される。

 微生物は有機物を消費する過程で、電子を外部に放出する。この電子を根の近くに炭素電極を設置して「収穫」すれば、電気を発生させることができる。

 植物から電気を取り出す仕組みは以前からあるが「これは植物を傷つける必要のない、非侵襲的なシステムだ」とヘルデル氏は語った。

 水が蒸発したり凍ったりした場合は発電が止まるが、「水を追加するか、氷が解けるのを待てばよいだけだ」と同氏は話した。

 オランダのワーヘニンゲン(Wageningen)に本拠を置くプラント・イーは現在、同社の発電技術を組み込んだ50センチ四方のプラスチック製容器で構成されるシステムを販売している。容器はつなぎ合わせて植物を収容できるようになっている。

 公園や屋上に設置するように設計されているこのシステムの価格は現在のところ、総面積100平方メートル分で6万ユーロ(約840万円)だ。

 だが、湿地で発電を開始するために迅速かつ簡単に水面下に設置可能なチューブ型のものなど、プラント・イーは現在も製品を開発中だ。(c)AFP/Nicolas DELAUNAY

 
  
文献[4]
文献[4]




文献

[1]http://www.plant-e.com/en/
[2]http://www.plant-e.com/en/plant-e-technology/
[3]http://www.plant-e.com/en/about-plant-e/
{4]http://www.afpbb.com/articles/-/3052066






6. 電流発生菌による発電(東京薬科大学)



 以下は、文献[1-3]から抜粋した概要である。

-------------------------------------


 これは、東京薬科大学生命科学部 生命エネルギー工学研究室の渡邉一哉教授による研究である。「研究を始めて約10年、物になりそうなところまで来ています」と渡邉教授は語る[1-3]。

 微生物燃料電池とは、微生物を使って、有機物を電気エネルギーに変える装置のことである。この場合、「燃料」とは有機物のことを指す。微生物には、電流生成菌と呼ばれる微生物が使われる。代表例はシュワネラ(Shewanella loihica PV‐4)で、2000年前後に研究成果が発表されはじめてから、この分野の研究が活発化したという。

 
  
シュワネラ菌[4]


 電流生成菌は、有機物の分解時に発生する電子を体の中から外へ放出する機能を持っているので、たとえ酸素がないときにも、有機物からエネルギーを取り出し続けることができる。微生物燃料電池は、この機能を利用しており、電流生成菌から出てきた電子を負極で受けとり、外部回路を通じて正極に電流を流している。

 発電効率: 渡邉教授によると、「もっとも良い条件ならば、1リットル容器を使った電池で数Wほどの出力は出せると思われます」という。

 用途として有望視されているのは、下水処理場の汚水処理である。現在、下水処理場の汚水処理は微生物によって分解する活性汚泥法が使われている。この方法は、微生物を働かせて汚水中の有機物を分解するために、空気(酸素)を水中に送り込む曝気が必要だが、これには大量の電気が必要となる。酸素がいらない微生物燃料電池を使えば、曝気は不要になるからその分電気使用量を削減できる上に発電までしてくれる。

 もっとも、電流生成菌については、まだよくわかっていないところも残っていることから、さらに研究を進める必要があると渡邉教授は指摘する。発電効率を高めるため、電極についても新たな材料の探求、開発が必要だという。

 土の中には、シュワネラなど今わかっている微生物以外にも、多くの電流生成菌がいるという。実際、渡邉教授は水をはった田んぼの土の中に負極を、水中に正極を入れた「田んぼ発電」の実験を行い、新種の電流生成菌を見つけている。学生実習でも、学生に様々なところから土を採取させて発電するかどうか確認させるが、まずまちがいなく発電するという。  
  
田んぼ発電[3]


 
  
原理[6]


 「今、見つかっている微生物はほんの一部で、有用な微生物はまだまだたくさんいるはずです。電流生成菌はその一例ですが、他にも有用な微生物が見つかれば面白いですね」[1-3].

 
  
田んぼ発電[5]


 
  
田んぼ発電実験中[5]


 この研究に関しては、下図のような成書が存在する。

 
  
微生物燃料電池による廃水処理
システム最前線渡邉 一哉 (監修)


 ・他の関連記事を見る


文献

[1]微生物が電気を作る(1/3)
[2]微生物が電気を作る(2/3)
[3]微生物が電気を作る(3/3)
[4]http://logos.ls.toyaku.ac.jp/~bioenergy1/
[5]電流発生菌(発電菌)が電気を起こす~微生物燃料電池






7. 電流発生菌の増殖法発見−酸化鉄と培養(東京大学など)



 以下は、文献[1]から抜粋した概要である。

-------------------------------------


 東京大学の橋本和仁教授と科学技術振興機構の加藤創一郎研究員らは、糖や酢酸などの有機物を分解して電子を放出する菌(電流発生菌)を、より多く増やす方法を発見した。

 複数の細菌が共存する水田の土を採取し、酸化鉄と一緒に液体培地で培養したところ、電流が多く流れることを発見した。

 電流発生菌は取り込んだ酸化鉄を利用し、他の微生物よりも有利な環境を作り出すという。微生物を使った燃料電池の実用化が期待できそうである。

この論文は、優れた学術論文として論文賞に輝いている(2013)。

 
  
論文賞受賞論文[5]。論文を見る



 電流発生菌は有機物を分解し電子を捨てることで、自分自身の増殖に必要なエネルギーを得る。発生する電子を電極で回収し、電流として取り出す微生物燃料電池の研究が、世界中で行われている。

 電極を底に敷いた、直径3センチメートル、高さ2センチメートルの円筒状の容器を準備し、酢酸入りの液体培地を容器に満たし、水田の土を入れて培養した。

 
  
実験装置[1]。


 プロジェクトリーダーの橋本教授、および渡邊一哉特任准教授、中村龍平助教の話は以下のとおりである(抜粋)[1]。

(元々の発想):

 さて、微生物は酸素呼吸をしている時、外部から取り入れたエネルギーの1/3だけを使い、残りはある意味で外に捨てているといえます。微生物が使ったエネルギーの残りを人間がもらおうというのが元々の発想です。これを実現するために、微生物燃料電池、微生物太陽電池という2つの研究を進めています。

(原理):

 普通の燃料電池は、水素を入れてやれば酸素と反応して発電します。メタノールから水素を作り、それを使って発電するタイプもあります。一方、微生物燃料電池は、エサとなる有機物を与えてやれば発電します。

 有機物には高いエネルギーが含まれています。私たち人間はこれを食物として取り込み、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー通貨に変換し、生きているのです。有機物に含まれていたエネルギー準位の高い電子からエネルギーを取り出しているわけで、最後にはエネルギー準位の低くなった電子をどこかに捨てる必要があります。

 この電子を酸素に渡して、二酸化炭素と水を生成する過程こそ、私たちが行っている呼吸です。酸素がないと人間は窒息死してしまいますが、それはエネルギー準位の低い電子を捨てる場所がなくなってしまうからだともいえるでしょう。

 微生物でも基本的にはまったく同じことが行われています。ただし、電子を渡す先は酸素でなくともかまいません。二酸化炭素に電子を渡すと、メタンが生成されます。牛がゲップを出すのは、酸素がなくとも生きられる微生物がメタンを作るから。田んぼの底からぶくぶく泡が出てくるのも同じ反応です。

 二酸化炭素に電子を渡すということは、酸素に渡す場合に比べてまだまだエネルギーが残った状態で渡していることになります。先にも述べたように、酸素呼吸では微生物は取り入れたエネルギーのうち、1/3程度しか利用せず、残りの2/3を捨てているのです。

 面白いことに、電子を二酸化炭素ではなく、電極に直接渡せる微生物もいます。それが、電流発生菌です。

(電流発生菌):

 電流発生菌自体は100年ほど前に発見され、そこら中の地中や水中、どこにでも見つかります。電流発生菌から電気を取り出す試みも行われましたが、電流密度が低いため実用にはならず、それほど研究は盛んではありません。

 電流発生菌に有機物を与えると、流れる電流が急速に増え、あるところまで来ると一定になります。さらに電流発生菌を増やしても、発生する電流は変化しません。電極に電流発生菌が取り付いているのですが、電極の面積は限られているため、離れた場所にいる菌は電極に電子を渡すことができないのです。



(微生物同士の共生利用):

 酸化鉄ナノコロイドを入れると、発生する電流が50倍になる。有機物が足りなくなると電流発生量は減るが、有機物を追加すれば回復する。  
  
酸化鉄ナノコロイドが、電流発生菌の
周りにまとわりついている様子[1]。
電流の変化[1]。




(遺伝子工学を使ってもっと電流を出すように改良することもできたりするのでしょうか):

 米国では実際にそういう研究も始まっていますし、私たちの研究室でも研究を進めています。こうした研究手法は、分子生物学を使っているという意味で、21世紀型です。しかし、自然との共生という方向からは離れていくように感じます。

 そこで、電流発生菌の生息環境について考えてみることにしました。実験室での研究は、動物園のようなもので、元々の環境とはまったく異なっているはずですから。

 例えば、代表的な電流発生菌であるシュワネラ菌は、海底火山の地殻から採取されました。地球科学の研究者に訊くと、深海から微生物を採取すると必ず酸化鉄や硫化鉄がまとわりついてくるのだそうです。

 そこで、シュワネラ菌のいる培養液に酸化鉄のナノコロイド(酸化鉄の微少な粒子が液体に溶け込んだもの)を加えたところ、電流の発生量がぐんと増えました。しばらくすると電流は減り始めますが、エサの有機物を追加すれば、また電流が出るようになります。微生物だけの場合に比べて、50倍以上の電流が発生するようになりました。



(いったい何が起きたのですか):

 酸化鉄ナノコロイドが糊、および電子伝達を仲介する物質として働いているものと考えられます。微生物の放出した電子が酸化鉄ナノコロイドに移り、酸化鉄ナノコロイドからまた微生物に移るというホッピングです。これによって、電極から離れたところにいる電流発生菌も電子を受け渡すことができる、つまり呼吸して生き延びられるようになったのでしょう。

 さらに、鉄イオンと硫黄イオンを加えると、微生物が硫化鉄を作り始め、電流の発生量は200倍になりました。今までも微生物が硫化鉄を作ることは知られていましたが、これがエネルギー変換に関係することは知られていませんでした。

 
  
メカニズム[1]。
電流発生菌だけだと電極に取り付いたものしか電子を渡せない。しかし、酸化鉄ナノ
コロイドがあれば電極から離れたところにいる電流発生菌も電子を渡せるようになる。




(生ゴミなどから直接発電する微生物燃料電池):

 次は、田んぼから泥を取ってきて、酸化鉄を入れてみました。エサの有機物を与えてやると、酸化鉄から電子を受け取れるタイプの微生物の割合がどんどん増えていき、それに伴って発生する電流も増えていきました。こういう環境に適応した微生物が助け合いながら、生き延びようとしているのです。この発見にはかなり興奮しましたよ。

 今のところ、1立方メートルの実験装置から130Wの電力を取り出せます。まだ効率がいいとは言えませんが、エサとしては廃棄物、例えば焼酎やビールを造った後の廃液など、処理に困っているものを与えればよいのです。電気を取り出すと有機物が分解されてきれいな水になりますから、廃液処理装置として使えます。  

 生ゴミも処理できるという点で、微生物燃料電池はコンポストと似ています。

 生ゴミにはまだエネルギーが残っていますから、コンポストで分解が進むと熱が発生します。一方、微生物燃料電池は熱くならず、代わりに発電します。熱は拡散していくためエネルギーとしては利用しにくいのですが、電気として取り出せれば利用しやすくなります。

 また、コンポストとは違いますが、バイオマスを利用したメタンガス発電では、有機物を分解してメタンガスを作り、それを燃やした熱で水蒸気を作り、タービンを回して発電しています。これに比べて微生物燃料電池は、ボイラーやタービンがいらないので、装置を小型化できるというメリットがあります。



(発電効率):

 今は1m3の装置で130Wですが、家庭用として使うなら1000Wは出力できるようにしたいところです。これで生ゴミ処理の機能もあれば、十分に競争力のある商品になるでしょう。処理効率を上げて、カスがあまり出ないようにしていきたいですね。

 まだ電流発生菌が発電する仕組みにはわかっていない点も多いため、現在この解明を進めており、電極の改良も行っています。数年以内には1000Wを達成したいと考えています。



(もう1つの微生物太陽電池の仕組みは?):

  
水田に電極を差し、発生した電流を計測。[1]

 光が当たると光合成を行ない、電極に電子を渡せるような微生物がいればよいのですが、残念ながらこういう微生物は知られていません。適当な電子伝達物質を混ぜれば可能ですが、人工的な物質は使わないようにしたいのです。

 それではどうするか。こちらも微生物燃料電池の場合と同じように考えました。自然界にはいろんな微生物がいるから、助け合って生きていけるのではないだろうか。

 そこで、東大構内にある三四郎池や、温泉から水を採取してきました。これらの培養液には窒素やリンは加えますが、エサの有機物は加えません。培養液に光を当てれば、この条件下で生きていけるエコシステムができるだろうと考えたのです。実際、光を当てると電流が発生しました。

 培養液を調べると、少なくとも2種類の微生物が共生していることがわかってきました。1つは光のエネルギーから有機物を作る光合成細菌。もう1つは、有機物を取り入れて電流を発生させる電流発生菌です。光合成細菌の作った有機物を、電流発生菌が取り入れて電流を生み出していたのです。

 太陽エネルギー変換効率は、三四郎池から採取した培養液で0.02%、温泉で0.04%。人工の太陽電池に比べると、はるかに低い効率です。しかし、重要なのは、自然の共生関係を活かすことで、微生物の余剰エネルギーを取り出せたということにあります。

 水田を電池として使えないか実験してみたところ、やはり電流が発生しました。イネが光合成を行い、根から有機物を出し、それを使って微生物が電流を発生させている、つまり太陽電池として機能していると考えられます。この場合の発電効率は0.01%とまだまだですが、自然の共生関係を利用して発電できた意義は大きいと思います。



(実用化に向けてのロードマップは?):

 微生物燃料電池は十分実現可能ですが、微生物太陽電池についてはまだ実用化云々を考える段階ではありません。今後さらに新しい知見を取り入れ、発電効率が今の100倍、1-2%になってきたら、初めて応用的なことを考えられるでしょう。



・カーボンナノチューブにより効率アップ:

 文献[2]によれば、以下のとおりである。

 課題は発電の効率を上げること。2010年には大きな進展があった。研究を始めた当初は1リットル当たり1ミリ〜10ミリワットしかできなかったのが「1リットル当たり2ワットの水準まできた」(渡辺氏)。世界的に見ても最高水準で「一気に実用化の見通しがみえてきた」(同)。

 効率アップの原動力になったのは電極の構造の工夫。微生物が電子を渡す側の負極を、グラファイト表面にカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)を多数つけた微細な構造にすることで、電流が流れやすくなることがわかった。

文献

[1]http://www.mobara.jp/nisimori/2/newpage97.index.html
[2]http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD1706D_Z10C11A1000000/








8. 微生物を使った発電型排水処理システム、実用レベルに到達(NEDO)



以下は、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のホームペイジに掲載されているニュース・リリース[1]の抜粋引用である。

--------------------------------------

微生物燃料電池の廃水処理性能向上、実用レベルに
―活性汚泥法と同等の廃水処理性能を実現―


2013年5月29日


 NEDOの基盤技術開発プロジェクトに取り組んでいる、渡邉一哉東京薬科大学教授らのグループは、微生物を利用した創電型の廃水処理に適した微生物燃料電池装置を開発、実験室サイズの装置(容積約1リットル)を用いた模擬廃水処理実験により、従来方式の廃水処理法である活性汚泥法と同等の処理速度を確認しました。

 この実験結果は、微生物燃料電池の廃水処理性能が実用レベルに達したことを示すものです。本事業の成果により、汚濁廃水中の有機物から電気エネルギーが回収されるだけでなく、活性汚泥法よりも少ないエネルギーでの処理が可能となることから、まったく新しい創電型の廃水処理に繋がることが期待されます。

 
  
文献[1]


1.背景

 現在、生活下水や工場廃水の処理には活性汚泥法という微生物処理法が広く用いられています。しかし、活性汚泥法は、曝気(微生物に酸素を供給すること)に多大な電気エネルギーを消費し、また電力供給が止まると処理ができなくなるという問題を抱えています。

 一方、21世紀になって有機物を分解して電気を発生させる微生物(発電菌)が発見され、このような微生物を使った微生物燃料電池が考案されました。この装置を廃水処理に適用すると、汚濁廃水中の有機物から電気エネルギーが回収され、また曝気も不要であるため、省エネ型の廃水処理が可能になると期待されています。

 しかしこれまでの技術では、従来の活性汚泥法に比べ、微生物燃料電池法の廃水処理性能が低い(数分の1程度)ことが問題となっていました。



2.今回の成果

 今回、NEDOの委託事業「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発プロジェクト・微生物触媒による創電型廃水処理基盤技術開発(PL:東京大学橋本和仁教授)」における、東京大学、東京薬科大学、積水化学工業株式会社、パナソニック株式会社による共同開発において、東京薬科大学生命科学部応用生命科学科の渡邉一哉教授らは、廃水処理に適した新たな微生物燃料電池装置を開発しました。

 具体的には、絶縁膜(プロトン交換膜)を挟んで正極と負極を一体化した"カセット電極"を作成し、このカセット電極を微生物反応槽に複数挿入することで、スラローム型流路を形成した微生物燃料電池です(図2)。

 実験室サイズの本形式の装置(容積約1L)を用いた模擬廃水処理実験において、水滞留時間9時間、有機物処理速度1.3kg-COD m-3 day-1という効率を達成しました。この効率は、並行して行った活性汚泥法による模擬廃水処理実験の効率と同等のものであり、微生物燃料電池式の廃水処理性能が実用レベルに達したことを示すものです。



 
  
文献[1]






3.今後の予定

 今後、スケールアップ技術開発、低コスト電極製造技術の開発、ベンチスケールでの実証実験など、本技術の実用化に向けた技術開発を進めて参ります。



文献

[1]http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100197.html







9. 微生物燃料電池の性能の飛躍的な向上と微生物による蓄電物質の生成(静岡大学)



以下は文献[1][2]の抜粋引用である。

--------------------------------------


静岡大学ニュース2016.06.02


 静岡大学総合科学技術研究科工学領域 二又裕之教授が、微生物によって新規蓄電物質が生成されることを発見しました。本研究は、生ゴミから直接電気エネルギー生産が可能な微生物燃料電池の性能向上を目指す研究から得られた成果です。

 微生物燃料電池は、微生物が有機物を分解する際の生物化学反応によって廃棄物処理とエネルギー生産を同時に行うことが可能な一石二鳥的な装置です。

 しかし、電流密度が低いこと、装置の安定化に時間がかかること、内部抵抗が高いこと、などのために、未だ実用化には至っていません。しかし、本新規物質の添加によって、短期間での装置の安定化、内部抵抗の大幅な削減と電流密度の約100倍の増加が認められました。

 この結果は、本新規物質が微生物と電極間の電子伝達を円滑にしたためと推察されました。そのため、本物質は微生物が関わっている廃水処理や環境浄化にも有効利用されることが期待されます。

 また、電気化学的な解析によって、本物質が蓄電能を有することが実証されました。これらの成果は、廃棄物の処理およびグリーンエネルギーの生産という我々が直面している社会問題の解決に大きく貢献し得るものです。

 今後、物質および微生物の更なる解析を通じて、更に高性能蓄電物質の開発、並びに、新しい学術的知見の獲得が期待されます。本成果は特許出願されています。



本研究の技術的特徴

  
文献[1-2]


 微生物燃料電池の発電効率化に向けた研究の過程で、偶発的に電流密度が著しく増加しました。その原因を探るため微生物の解析を進めていたところ、微生物が導電性物質を生成することを発見しました。

(右図上:微生物が物質を生成したため、微生物培養液が黒く濁っている。右のボトルの様に、直ぐに沈降する。右下図:共焦点レーザー顕微鏡による観察結果)。

 本物質を微生物燃料電池に添加したところ、数日で電流密度が増加し、未添加の場合と比較し約100倍の電流密度の増加を示しました。電気化学的解析の結果、大変興味深いことに、本物質には蓄電能があることが示されました。



今回の発明の特徴(世界初の点を含む)

(1) 微生物による蓄電物質の生成を世界で初めて発見。

(2) 微生物燃料電池の性能を飛躍的に向上。

(3) 生物が関わる反応場(廃水処理、環境浄化、生体内マイクロデバイス など)へ適応の可能性あり。



現在の段階

・本新規物質の物質科学的解析ならびに蓄電性能の更なる向上化。

・微生物の特定および生成機構と電子伝達機構の解明。

・微生物燃料二次電池の開発に着手。 特許は、特開2014-064566である。



文献

[1]https://www.shizuoka.ac.jp/news/detail.html?CN=3153
[2]http://www.shizuoka.ac.jp/cms/files/shizudai/MASTER/0100/Ag2c1zpy.pdf








10. 微生物燃料電池で発電と枯渇資源リンの回収に成功(岐阜大学)



 これは、岐阜大学流域圏科学研究センターの市橋修(特任助教)と広岡佳弥子(准教授)による研究成果である。以下は文献[1]の抜粋引用である。

--------------------------------------


【市橋】 私たちは水処理の観点から,微生物燃料電池が電力を発生させる過程で,微生物による有機物の分解が起こることに着目しています。廃水に含まれる多量の有機物は,河川や湖沼(こしょう)等の汚染の原因の一つとなります。

  
文献[1]


 この有機物を燃料にしてうまく発電ができれば,エネルギーを回収するのと同時に,効率よく廃水を処理できるのではと考えました。

【廣岡】 今回,私たちは微生物燃料電池でリンが回収できることを突き止めましたが,これは研究を進める中での偶然の発見でした。ある日,いつものように実験を行っていたところ,電極に付着物があることに気が付きました。

 注意深く観察してみると,キラキラと輝く結晶のような物体が見え,廃水中の他の微生物とは明らかに違いました。そこで詳しく検査したところ,高濃度のリンだと判明したのです。

 以前から微生物燃料電池の電極にリンが付着する現象は起きていたと思いますが,他の研究者は必ずしも廃水処理が専門ではないため,リンを回収することに意識が向いていなかったのでしょう。だからこそ,私たちが世界初の発見に辿りつけたのだろうと推察しています。

【市橋】 それ以外にも,私たちが「実廃水」を使っていたことも大きなポイントでした。通常,微生物燃料電池の実験では人工廃水を使用します。人工廃水とは,実験に応じて人工的に成分量を調整して作られたものです。

 私たちはこうした人工廃水ではなく,実際の養豚廃水で実験を行っていたのですが,この廃水はリンの回収がしやすい条件がそろっていたのです。高濃度のリンが含まれていたことに加え,回収に必要なアンモニウムやマグネシウムなども適度に入っていた。こうした偶然が重なり合い,今回の発見に繋がりました。

【廣岡】 リンは農業用肥料として広く使われるなど,暮らしに欠かせない大切な物質です。日本はほぼ全量を輸入に頼っていますが,世界中で枯渇が心配されるため,近い将来,国家間の争奪戦が繰り広げられる危険性をはらんでいます。

 こうした貴重な資源であるにも関わらず,日本でのリンの年間輸入量が80万トンであるのに対して,生活排水や家畜排泄物に含まれて廃棄される量は30万トンと言われています。加えて,廃水処理には膨大なエネルギーがかかりますが,廃水が潜在的に持っているエネルギーはその数倍と推測されます。

 だからこそ,私たちの研究により,効率的に廃水処理が行え,リンも自国でリサイクルできる,そんな仕組みが構築できればいいなと思います。

  
文献[1]


特許は、特開2013-084597である。

文献

[1]http://www.gifu-u.ac.jp/about/publication/g_lec/special/201411.html










11. 関連する他の情報(日本)



 日本の数多くの研究機関においてこの分野の研究がなされているが、以上の記述はその一部を示したに過ぎない。ここで、他の情報について少し触れておく。

  1. セミナー:微生物燃料電池(MFC)の研究開発と発電・排水処理などへの応用・適用動向 http://www.tic-co.com/seminar/20160809.html
    もし、これにアクセスできない場合は、ここをクリック

  2. 微生物燃料電池の可能性―グリーンイノベーションへの挑戦:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/50/3/50_150/_pdf
    もし、これにアクセスできない場合は、ここをクリック

  3. 北海道大学・微生物燃料電池:http://www.eng.hokudai.ac.jp/labo/water/research_MFC.html

  4. 広島大学・微生物燃料電池:http://home.hiroshima-u.ac.jp/tkakizo/Kakizono's%20Site/FC636E26-4A67-4D45-BB69-B6C7267C3E44.html

  5. 河川有機堆積物を用いた微生物燃料電池による環境浄化及び高出力化に関する研究(愛知工大)

  6. その他。 とても沢山存在するので検索されたい。もちろん、大学や研究機関の勤務者や学生なら、世界の学術論文を図書館検索システムにより難なく入手できるので、ぜひ試みてほしい。

    また、特許は、例えば、検索用語“微生物燃料電池”で検索してみても、とても沢山ヒットするので試みてみるとよい。









12. 公開特許公報の例(日本)



 日本国特許は2016.8.8時点で、約62件存在する。多くの企業がこの分野に参入している。以下、62件のなかから最近の数例を挙げてみる。(なお、米国特許は、とても大きな数にのぼる。)

------------------


(1)微生物燃料電池(特開2016-122615) 熊本大学 2016.7.7

  
Jpn.pat.2016_122615


【要約】

【課題】

湿泥中に存在する微生物を利用して発電する微生物燃料電池を提供する。

【解決手段】

アノード電極と前記アノード電極に電気的に接続されるカソード電極とを備える微生物燃料電池であって、

前記アノード電極が有機物を分解して電子を産生する微生物を含む湿泥の内部に配置され、前記湿泥に含まれる微生物によって産生された電子をアノード電極で回収することにより発電する微生物燃料電池。

当該微生物燃料電池は、湿泥中の有機物を当該湿泥に含まれる微生物が分解することで発生する電子を外部回路に取り出すことによって発電することができる、いわゆる「泥の電池」として使用できる。







(2)微生物燃料電池用電極およびその製造方法、ならびに微生物燃料電池
(特開2016-126929)
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 2016.7.11

【要約】

【課題】

金属製のアノードを有していながらも出力電流密度が高い微生物燃料電池、および前記微生物燃料電池において金属製のアノードとして使用されうる微生物燃料電池用電極を提供すること。

【解決手段】

微生物燃料電池用電極は、液体を収容するための収容部と、前記収容部内に収容された、有機物および電子供与微生物を含む電解質溶液と、前記電解質溶液に接触するように配置されたアノードと、

前記電解質溶液に接触するか、またはカチオン透過性の隔膜を挟んで隣接するように配置されたカソードとを有する。前記アノードは、最高到達温度が200℃以上となるように加熱処理をされた金属を含む。

  
Jpn.pat.2016_126929


  
Jpn.pat.2016_126929.


100、200、300 微生物燃料電池
110、210 容器
112 アノード槽
114 カソード槽
120 電解質溶液
130 電子供与微生物
140 隔膜
150、310 アノード
160、220 カソード
230、320 膜・電極接合体(MEA)





(3)微生物燃料電池用の電極部、電極部集合体、及び微生物燃料電池
(特開2016-115413)
日新電機株式会社 2016.6.23

【要約】

【課題】

単位体積当たりの発電効率を改善できる微生物燃料電池の電極部、電極部集合体、及び微生物燃料電池を提供する。

【解決手段】

当該電極部は、有機性排水中の有機物質を微生物により分解して電気エネルギーを取り出す微生物燃料電池用の電極部であって、内部に空洞部を有し、長手方向に一端と他端とを有する中空筒形状の電気絶縁体と、前記電気絶縁体の少なくとも内周に形成された、酸素還元触媒機能を有するカソードと、前記電気絶縁体の外周に形成されたアノードと、 前記長手方向の一端に形成され、前記空洞部が外部に開口した部位であり、気体が通気しうる第1の通気口と、を備える。

  
Jpn.pat.2016_115413.


10 微生物燃料電池、 11 有機性排水、 12 貯留水、 20 反応容器、 21 給水口、 22 排水口、 23 給気口、 24 貫通シール部、 25、77 通気シール部 、 30 電極部、 31 空洞部、 32 電気絶縁体(中空糸膜、中空糸)、 33 カソード、 34 アノード、 35、37 開口部(通気口)、 36 引き出し線接続部(カーボン繊維)、 40、41 通気管、 50 支持部、 51 第1の支持部、 52 第2の支持部、 53 支持部接続部、 54 電極固定部、 60 外部回路、 61、62 引き出し線、 63 負荷抵抗、 70 通気部、 71、76 通気部外壁、 72、77 通気口、 73、74 端子部、 75、78 空洞部、 80 電極部集合体、 81 第1の固定部、 82 第2の固定部、 83、84 固定部接続部、 85 通し棒、 86、87 通し棒固定部、 90 給水ポンプ、 100 酸素供給部、 110 酸素供給ポンプ、 120、170 開閉バルブ、 130 圧力計、 140 圧力制御部、 150 気体導入管、 155 気体導出管、 160 酸素濃度計、 180 攪拌部、 181 攪拌機、 182 攪拌制御部、 183 タイマー、 190 気泡洗浄部、 191 気体供給ブロワ、 192 ブロワ制御部、 193 タイマー、 194 気体供給管、 195 気泡発生部、 200 揺動部、 210 揺動機構、 220 揺動制御部、 230 タイマー、 240 揺動アーム、 341 アノード装着部、 342 連結部、 400 浄化システム、 410 沈砂池、 420 最初沈殿池、 430 反応タンク、 440 最終沈殿池、 450 消毒部、 820 通水孔、 B 電気産生微生物、 CL 切断線、 M 電子伝達体。





(4)微生物燃料電池用エアカソード、膜・電極接合構造体及び微生物燃料電池
(特開2016-091964)
積水化学工業株式会社 2016.5.23

【要約】

【課題】

微生物燃料電池の電気の回収効率を高めることができる微生物燃料電池用エアカソードを提供する。

【解決手段】

本発明に係る微生物燃料電池用エアカソード1は、微生物燃料電池に用いられ、空気室Rを形成するように対向配置された第1のカソード11及び第2のカソード12と、空気室R内に空気を送り込むための少なくとも1つの空気送入部13と、

空気室R内から空気を送り出すための少なくとも1つの空気送出部14と、空気室R内の空気送入部13に接する部位と空気室R内の前記空気送出部14に接する部位との間で、空気室R内を仕切るように配置されている少なくとも1つの仕切り部材15とを備える。

  
Jpn.pat.2016_091964.


1,1A,1B,1C…エアカソード
1a,1Aa,1Ba,1Ca…一端
1b,1Ab,1Bb,1Cb…他端
10…枠材
10A,10B…側面部材
10C…底部材
11…第1のカソード
12…第2のカソード
13,13B,13C…空気送入部
14,14B,14C…空気送出部
15,15AA,15AB,15B,15C…仕切り部材
 R, 空気室





(5)微生物燃料電池(特開2016-091805)
  国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 2016.5.23

【要約】

【課題】

有機物の分解能力が高く、かつ窒素除去も可能な1槽型の微生物燃料電池を提供すること。

【解決手段】

微生物燃料電池は、容器と、前記容器内に収容された、有機物および電子供与微生物を含む液体と、前記液体に接触するように配置されたアノードと、外気に接触し、かつ前記液体に直接接触するか、

またはカチオン透過性を有する隔膜を挟んで隣接するように配置された、ガス透過性を有するカソードと、前記液体に酸素を含む気体を送り込む曝気装置と、を有する。前記曝気装置は、前記液体に前記気体を間欠的に送り込むことが好ましい。

  
Jpn.pat.2016_091805.


100 微生物燃料電池
110 容器
120 液体
122 電子供与微生物
130 アノード
140 膜電極接合体(MEA)
142 隔膜
144 カソード(エアカソード)
150 浮き
160 曝気装置
162 ポンプ
164 散気管
166 制御部
168 空気
170 導線






(6)微生物燃料電池(特開2016-54053) シャープ株式会社 2016.4.14

  
Jpn.pat.2016_091805.


【要約】

【課題】

嫌気性の電流発生菌が存在する土や泥などに筒状保持体を埋め込むだけで容易に構成でき、

かつ自然の生態系(電流発生菌の代謝およびその入れ替わり)に対してオープンであり、

半永久的に起電力を得ることのできる微生物燃料電池を提供する。

【解決手段】

少なくとも一部に第1の開口部を有する第1の筒状保持体と、

前記第1の筒状保持体の少なくとも外表面に設けられる負極と、

前記第1の筒状保持体の内部に設けられる正極とを有し、

前記負極と前記正極とは前記第1の開口部とイオン伝導体を介して接続されており、少なくとも前記負極表面には嫌気性の電流発生菌が定着している、微生物燃料電池。

1 微生物燃料電池、
2 第1の筒状保持体、
3 負極、
4 イオン伝導体、
5 正極、
6 第1の開口部、
7 第1の開口部、
8 負極配線、
9 正極配線、




















13. 世界における研究開発状況(特許・論文)



 これは、文献[1]の抜粋である。

------------------


 図1に示すように、論文数は2003年ころより少しづつ増え始め、最近はかなり増加している。

  
文献[1]


  
文献[1]


  
文献[1]


 表2の時点で、日本の場合、渡邊一哉教授(東京薬科大)が13報であった。



文献

[1]草麻里穂:東レリサーチセンターTheTRC Journal 2015.11









B.樹木発電

1. 樹木発電(日本)



 しんきん情報システムセンターと麻生大学の共同研究(2004)により樹木発電の実験が行われた。以下は、その文献[1]から抜粋した概要である。

-------------------------------------


はじめに

 生きた樹木の樹幹内の自由電子は事実上ゼロであることを確認している。このままでは電源として利用できないので,乾電池の原理で電気を起こさせる方法の実験をしている。マイナス極に自由電子を発生させる物質を選び,プラス極に電子を吸収しやすく電子を発生しない物質を選び,両極を導線で結んで電気を流すのが乾電池の原理である。

  
文献[1](2004)
 マイナス極がアルミ棒,鉄棒,銅棒,真ちゅう棒の実験結果および樹の種類による発電量の違いについては前回報告しており,今回はマイナス極が溶液の場合の実験結果を報告する。

実験方法

 実験樹木は大学敷地内のケヤキとし,プラス極の電子を吸収する物質(集電棒)として長さ47mm 直径4mm の炭素棒を樹幹に深さ約20mm 打ち込んだ。マイナス極の電子発生側は,長さ50mm 内径3mmのステンレスパイプに脱脂綿を充填し各種の飽和溶液をしみ込ませ樹幹に深さ約20mm 打ち込んだ。

 植物に有害な溶液パイプを打ち込んでは生かし続けることの目的に反するため,飽和溶液は植物体内ふるい管液の組成成分,スクロース,K,Cl-,NO3-,Mg2,Ca2,PO43-の物質を13 種選んだ。また,市販の液体肥料と活力液の3 種についても実験した。

実験結果

 どのような溶液を選んでも枯れた樹木では全く発電しなかったので,植物体内を樹液が流れていることが発電の必要条件となることが確認された。塩化アルミニウム,トップドレッシング(肥料),塩化カリウムなどの発電量が大きく,亜硝酸ナトリウム, 炭酸カルシウム, 塩化カルシウムなどの発電量が小さかった。



文献

[1]立石まり央et al.クリーンエネルギー植物生体発電法の開発II マイナス極が溶液の場合の発電, 麻生大学雑誌、第9・10巻(2004)p.60.








2. 樹木発電(ワシントン大学)



以下は、文献[1]の抄訳である。

-----------------------------------


  
樹木発電[1]

 あなたは、いままでにフラワー電気という電気を聞いたことがあるだろう。それでは樹木電気というのはどうだろうか? それが存在することが分かってきたのである。小さいけど測定可能な量である。

 ワシントン大学の研究者にとっては、電子回路を動かすに十分な電力が樹木の中には存在する。この論文は、学術誌The Institute of Electrical and Electronics Engineers' Transactions on Nanotechnologyの次号に掲載されることになっている。

 共同研究者のワシントン大学電気工学科のババック・パービッツ准教授は、“我々の知る限り、これは、樹木の中に電極を刺して電力を得た初めての査読論文である。”と述べている。

 昨年、マサチューセッツ工科大学(MIT)で、一つの電極を木の中に置き、もう一つの電極を周囲の土の中においたとき200mVまでの電圧が発生することが発見された。彼らは、この新しいエネルギー源を利用する森林センサを開発する会社をスタートさせた。

 ワシントン大学の研究チームは、そのエネルギーで走らせる電子回路を製作することによって樹木電力の分野における学術的研究を探索した。彼らは、樹木電力のみで回路を走らせることに初めて成功した。

 共著者のカールトン・ハイムズ(ワシントン大学の学部生)は、昨年夏、同大学のキャンパスで研究を行った。樹木(複数)に釘をひっかけて電圧計につなぎ、カエデ(同構内にはよくある木)の大きな葉が、数百mVの電圧を定常的に発生することを発見した。
  
増幅コンバータ[1]


 ワシントン大学の研究チームは、次いで、こうして得られる電力で動くことのできるデバイスを作った。ワシントン大学の電気工学科の准教授で共同研究者のブライアン・オーチスが、増幅コンバータの開発を指揮した。それは、低い入力電圧で動作し、より大きな電圧に変換するものである。

 彼のチームの増幅コンバータは、20mV程度の小さな入力電圧で動くが、これは今まで存在するどんなデバイスよりも低い電圧である。出力は1.1Vであり、これは低電力センサを動かすのに十分な値である。…低電力だけではなく、省エネルギーのために、ほとんどの時間、スリープモードで眠る。

 …樹木発電現象は、ポテトやレモンの実験とは異なる。その場合は、二個の異なる金属が電位差を発生するのに使われ、それで電流が得られるのである。

 “ポテトやレモンの現象との混乱を避けるために、我々は同一の金属を使ったのです。”とパービッツは述べた。樹木発電は太陽電池に置き換えることはできないが、環境計測や森林火災センサの電源として使うことができると、彼は述べている。電子回路の出力は樹木の健康度を測定するのにも役立つ、という。

   September 8, 2009

文献

[1]http://phys.org/news/2009-09-electrical-circuit-power-trees.html







C.その他

1. 師管液成分を燃料とする燃料電池の試み(東京工芸大学)



 岡野光俊教授(東京工芸大学)は植物の師管液成分を燃料とする燃料電池の試みを行った(2012)。以下は、その文献[1]から抜粋した概要である。

-------------------------------------


 スイカを実際に栽培し、実の成長が始まった段階で燃料電池を装着した我々の実験の例を紹介する。実の中へと輸送されてくる師管液成分化合物を燃料電池へ導いているという想定である。

  
スイカへの燃料電池の装着[1]

 屋外のプランターにて栽培したスイカをプランターごと実験室へ持ち込み、室内の蛍光灯下に実験を行っている。

 数時間の実験終了後は、燃料電池を装着したまま屋外へ戻し、翌日再び実験室へ持ち込んで実験するという方法を採用した。

 図は燃料電池の装着の様子である。スイカの株の大きさは、長さ40.8 cm、燃料電池装着前のスイカの実の大きさは、直径2.5 cm であった。

 写真では、上側が燃料極側、下側が空気極側になっている。空気極側は、空気(酸素)が拡散して供給される構造で、触媒としての白金ブラックを担持したカーボンペーパーを使用している。

 燃料極側は、師管液成分が拡散して供給される構造で、以下に示す結果は、金属触媒を使用せずにケッチェンブラックのみを使用したものによる結果である。ポテンシオスタットを使用し、0.1 V の電圧を維持しながら2時間の発電を行わせた場合、電流は非常にゆるやかに減少していったが、平均約5μA の電流が流れた。

 1日(2時間の実験)で約3.6 x 10-2C の電気量、1 x 10-3 mWh のエネルギーが得られた計算になる。エネルギーとしては大変少ないが、植物から電気が得られることを明確に示した実験で ある。この実験では4日目になって燃料電池装着部が枯れてきてしまい実験終了に至っている。植物に極端な負担をかけることなく電気を得る方法を模索していく必要がある。



文献

[1]岡野光俊: 東京工芸大学工学部紀要Vol.35 No.1(2012)pp.103-108.






<↑Topへ>

inserted by FC2 system